塾の先生に聞く、日本の大学進学のポイントQ&A

日米の大学進学における違いや、気を付けるべきことなど、またコロナ禍後の教育の現状について、ロサンゼルスで学習塾コミットを経営する下田塾長にお話を伺いました。


コミットに通う生徒さんの、日本の大学への進学状況を教えてください。
最近は、『ライトハウス』での広報の影響もあってか、日本への進学を選択肢に入れる子も増えている感じはします。日本でも、英語で勉強できる大学が増えてきたのも大きいですね。当塾は、現地校の勉強のサポートをしており、生徒の比率は永住家庭と駐在家庭が平均7:3程度。進学先の割合は、もちろんこれも年によって変わってきますが、平均すると、アメリカと日本で3:1程度です。

コロナ禍後、どんな変化がありましたか?
当コロナ禍になって、子どもたちはもちろん、先生も含め、気持ちが滅入ってしまう人は多かったですね。コロナ禍でできた時間をうまく使えた子もいれば、そうでない子もいます。「Zoom」を使っての授業は、やはり便利な面はあり、日本に帰っている時や少し体調が優れない時や、州外に引っ越してからも授業を受けられるというメリットはあります。また保護者としても、「普段なかなか見ることのない、授業の様子が見られるのは面白い」という声もありますね。とはいえ、「Zoom」の授業は対面に比べれば理解度は6割程度という印象。今はほぼ対面に戻っていますが、今後も対面授業をベースに、帰省する家族の多い夏はオンラインでの授業を残そうと考えています。

日本の大学の、日本国外からの受け入れ状況をどう見ていますか?
入学受け入れという観点で見ると、体制が整ってきていると感じます。今までは、英語で受けられるコースというと国際教養系の学部ぐらいでした。それが最近では、理系の学部やジャーナリズム系など、多くの分野を日本で、英語で学ぶことができるようになってきています。英語環境で育ってきた生徒にとっては非常にありがたい環境です。
進学の志向は、駐在家庭と永住家庭で違いがあって、駐在家庭の場合は国籍の壁もあり、アメリカの大学に進学する子は少ないです。アメリカで得た英語能力を活用したい、より伸ばしていきたいということで、日本の大学の英語プログラムを選ぶ生徒が多いですね。一方で永住家庭、アメリカ生まれの生徒だと、日米両方が選択肢になってきますが、日本の大学で授業を受けたくとも日本語能力が届かない場合も多いので、英語プログラムで日本語の授業も取れるコースを目指すケースが多いです。バイリンガルのコースが理想的ですが、実施している大学は国際基督教大学(ICU)や立命館アジア太平洋大学(APU)など、今はまだ選択肢が限られています。

アメリカの大学ではSAT・ACTを課さない大学が増えていますよね?
はい。私たち学習塾としては、そういった共通テストに向けた授業をしてきましたから、あってくれた方がいいというのが正直なところです。とはいえ、共通テストの影響力が下がってきて、学校の成績やエッセーがより重要になっているのは事実です。これらは日々の積み重ねです。特に高校生の間に、意識して、自らイニシアティブを取って行動できるか、頑張ったことをアピールできるかが大切です。“What can you offer?”と聞かれたときに、はっきり答えられることがあるかということです。
これは保護者の方も上手に協力しているのだと思うのですが、「オンラインで折り紙教室を開いてみた」「シェルターや植物園でボランティアをした」「部活動でリーダーシップを取った」など、積極的に行動している生徒は過去にもいて、そういった経験から見えたものを語れる子は強いです。

日米の大学を比べて、特徴や違いはありますか?
入学について言うと、やはりいちばん大きいのは、受験時に学部・専攻を決めて入学するかどうか。日本は学部・学科を決めて受験するのが一般的ですが、アメリカでは入学後に専攻を決める点が大きな違いです。ただ、日本の大学でも9月入学であれば、アメリカの大学の制度に近いものを取り入れてきている大学もあります。

アメリカの大学と比較して、日本の大学のアドミッションや、それに向けた準備に違いはありますか?
9月入学の試験は、アメリカの制度にかなり近いものになっていて、SAT、学校の成績、エッセー、課外活動の記録、学校によってTOEFLなどです。9月入学、英語のプログラムで入学を考えるのであれば、準備にそれほど大きな違いはないと言っていいでしょう。
一方、4月入学の日本語のプログラムを目指す場合は、小論文や面接、学力(筆記)試験が入ってくるのが大きな違いです。特に理科や数学は、アメリカの授業を受けているだけでは日本の入試に対応できないことが多いですから、高校に入ったらすぐに、対策を始める必要があると思います。

学校を選ぶ際にはどんなところをポイントに見るといいでしょうか?
やはり、大学に実際に行ってみるように言っています。学校の雰囲気、周りの街も含め、見てきた方がいいと思います。大学が持っているエナジーやバイブスがあるので、それが自分に合うかどうかというところが大切です。また、日本の大学の場合は前述の通り、学部選びがありますから、大学がその学部の教育に力を入れているか、よく見るよう勧めています。各大学は理念を掲げて教育を提供していますから、大学のウェブサイトにある学長の言葉などは、必ず読むように指導しています。
ただ、どの大学に入学したから成功・失敗ということはなく、その大学での4年間をどう過ごすかが重要だと思っています。4年間は長いですし、その後は社会人として独り立ちすることになりますから、学業だけでなく、いろいろなコネクションを作るなど、自分を育てる期間と捉えてほしいです。
下田佳子さん
取材協力:
下田佳子さん
学習塾コミット/Commit Tutoring 塾長
カリフォルニア州立大学ノースリッジ校卒業後、学習塾にて10年間、講師として勤務。現在は学習塾の経営者として生徒たちを指導している。

www.commit-tutoring.com

※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版2022年4月1日号」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。