塾の先生に聞く、日本の大学受験対策

志望校選びから勉強の進め方、スケジューリングなど気になる疑問について、実際に新二世や帰国生を日本の大学に送り出した現役塾講師の皆さんに話を伺いました。


受験準備はどう進めていったらいいでしょうか?

熊野 弘さん
取材協力:
熊野 弘さん
GATE現地校学習塾 塾長
www.gate4math.com
 
大学受験のステップは①将来のプランを考える、②アメリカか日本か併願を決める、③目標大学と学部を決める、④出願準備、⑤受験準備です。以下、順を追って説明していきます。
 
まず取り掛かってほしいのは、「大学に行く目的」について考えることです。大学は卒業後の目標、将来の夢などを書類審査や面接で問うてきます。大学入試のためだけに考えるのではなく、人生についてじっくりと時間をかけて考えてください。
 
次に、日米どちらの大学を受けるのか、方向性を絞っていきましょう。日本の場合、受験方法を選択します。受験方法は大きく分けて、①帰国子女枠、②外国人・留学生枠、③AO(書類選考)入試、④一般入試です。複数の受験方法で受験すればチャンスが増えます。外国人枠の場合、複数の受験時期を用意している大学もあります。
 
まず、志望大学の志望学部がどの方法を用いているかを調べましょう。全ての学部・学科が帰国子女枠や外国人・留学生枠での募集をしているわけではありません。また、日本国籍の有無によって受験方法が指定される大学もあります。さらに、毎年対象学部や受験資格の変更がありますので、出願該当年の募集要項が発表されたら大学のウェブページなどで調べてください。そして、どの方法が適しているか、大学に問い合わせたり、学習塾に相談したりして、選択肢を増やしていきましょう。
 
出願ですが、アメリカの大学の出願はシンプルです。ほとんどの大学が共通の出願サイトから出願できます。現地校の成績と統一テスト、自己PRを含むApplication Essayをアップロードして出願します。一方、日本でも多くの大学がウェブサイトでの出願に移行しています。しかし、一度オンラインで出願し、その後書類を郵送するという方法を取るところが多いようです。また出願期間が決まっているので、郵送の時間も含めて準備期間を設定しましょう。出願期間は、秋入学(9月)では12年生の10月~3月頃、卒業翌年の春入学では高校卒業後からという大学が多いです。統一テストの結果を要求されている場合は、結果の送付手続き時間(3~4週間)も考慮する必要があります。また、現地校の夏休み前に必要書類を入手するため、成績表・卒業証明書・推薦書などは早めに申請しておきましょう。
 
受験勉強は現地校の勉強と並行して進めていきます。日本の大学にも、アメリカの大学を受けるのと同様の選考を行っているところは多くあります。その場合、現地校の成績(GPA)とSATなどのテスト成績が合否の大きな要因になりますから、現地校での勉強に重点に置いて進めていきましょう。GPA(成績の平均)を上げるためにも、Advance Placement(AP)やHonorsクラスを受けることをお勧めします。小論文や学科試験(国語・理数科目など)が課される日本の大学を受験する場合、受験準備は科目によって、それぞれに適したタイミングで手を付けていきます。理系科目は、現地校の理系科目に合わせて学習を進めると効率的です。
 
日本の大学の帰国・外国人入試制度は毎年更新されています。受験する年度の要項を確認して、的確な準備をしていきましょう。


志望大学・学部の選び方と、勉強の進め方を教えてください!

下田佳子さん
取材協力:
下田佳子さん
優塾 塾頭
www.youjuku.com

志望大学・学部を選ぶ
 
1.学部から選ぶ
 
自分が興味あるものを知ることが大事です。アメリカの大学と違い、日本の大学は入試の時点で、どの大学のどの学部に行きたいのかを決めなければいけません。自分は何が得意で、何にパッションを持ち、将来どんな専門家になって、社会に貢献したいのかを把握することは、とても大事です。4年間という時間と大きな学費を投資していくので、自分が好きなことにとことん没頭できる環境を探すことが大切です。また、大学がオファーするコースをよく調べましょう。どんな教授がどんな授業をしてくれるのかを、きちんと調べる必要があります。英語コースの授業の質、教授の英語レベル、留学生を集めて育てる教育レッスンプランなど、さまざまな視点から調べましょう。
 
2.仕事から考える
 
将来何のプロとして活躍するのか。何のために大学に行くのか、卒業後にどんなフィールドに立ちたいのか、大学で得た専門知識を何に役立て、どのような形で使えるのか。また、その大学の卒業生がどんな仕事に就いているのかを知ることも、大学を選ぶ判断材料になります。将来日本で仕事がしたいのか、アメリカで働きたいのかなど、どこで就職したいのか考えておくことも大切です。
 
3.なぜ日本なのか
 
アメリカでは得られない付加価値が日本にあるのか、アメリカでも高いレベルの授業を受けることができるのに、なぜ日本の大学なのかを、考える必要があります。卒業時には英語も日本語もビジネスレベルで使えるようになるバイリンガル教育を掲げる大学もあります。日本で暮らしてみたい、日本の文化にもっと身近に触れてみたい、日本で就職がしたい、日本人としてのアイデンティティーを確立したい。こういった思いがあるなら、日本の大学を選ぶ明確な理由になるでしょう。
 
勉強の進め方
 
日本の9月入学の入試を受けるならば、アメリカの大学入試ととても似ています。必要なものは主に「SAT/ACT」「TOEFL」「エッセー」「GPA」です。SAT対策は早ければ英語は10年生から準備が始められます。数学はAlgebra2の内容が出るので、学校でAlgebra2を履修しているタイミングで準備を始められます。11年生が終わる夏までに理想のスコアを出せるといいと思います。
 
TOEFLは大学によって必要になるケースもあるので、1回受けてスコアを持っておくと安心です。リーディング・リスニング・スピーキング・ライティングとセクションも多いので、事前に模擬テストを受けて、テストのスタイルを知っておくといいでしょう。
 
エッセーはとても大事です。アメリカの大学も日本の9月入学の試験も基本は書類審査。テストのスコアや学校の成績などの数字で判断されますが、その中で、自分はどんな夢を持っていて、どんなことを頑張ってきて、どんなことにパッションを持っていて、どのように将来活躍していきたいのか、大学4年間で何を学びたいのか、自分をアピールできる唯一の手段がエッセーです。11年生の終わった後の夏から始めましょう。
 


 

保護者が気を付けることや精神面でのフォローについて教えてください!

御殿谷光一さん
取材協力:
御殿谷光一さん
巣鴨アドバンススクール アメリカ事業部責任者
www.sugamoadvance.com
 
進路においての親の役目は、子どもが失敗しないために、子どもの代わりに進学先を決めてあげることではありません。彼らの良き壁となり、彼らの本気の決断を引き出し、何があろうとも子どものことを信じてあげることです。
 
子どもは大学から親元を巣立ちます。アメリカの高校に通っていた子であれば、日々の親の送り迎えがあったでしょうから、日本の大学に通うことは親元を離れる第一歩です。もちろん保護者の方も、心配になるでしょう。本当にうちの子は一人でやっていけるのだろうか、せめて大学だけは、変なところに行ってほしくない、と。そのため必要以上に子どもの進学先に口を出したくなってしまうものです。
 
ただ、親が行かせたい大学に子どもが進学した場合、どういうことが起きるのでしょうか。大学生活が順調に進むのなら、そこまで問題はありません。しかし、大学生活がうまくいかない場合、その責任を取らされるのは、進学先を決めた親になってしまいます。「親の責任」と思ってしまえば、子どもたちは力を発揮することができません。ぶつかっている壁を、なんとかして自分の力で乗り越えよう、とは思えないでしょう。親のせいだ、と思って諦めてしまうだけです。逆に、自分が決めた大学であれば、自分の持てる最大限の知恵と知識を使い、自力で乗り越えようとすることでしょう。なぜなら、自分が決めた道だからです。自分で責任を取ろうとなれば、力を発揮できるのです。
 
私自身、親の反対を押し切ってアメリカの大学に留学しました。私の父は、最初は留学に反対でした。(当時は)留学してもろくな就職先がない、途中で挫折して帰国する留学生も多い、と。母は「あなたが決めたことなら」と応援してくれました。そんな父の反対を押し切って留学した私でしたが、海外での生活は思った以上に大変でした。特に体調を崩した時や成績が悪い時、お腹が減った時など、日本に帰りたくなったことも多々ありました。それでも、自分で決めた道だったので、「簡単に日本には帰れない」と思ったものです。自分で決めた道だったからこそ、簡単に逃げることができず、それが力を発揮できるきっかけとなりました。
 
子どもたちは、親からは頼りなく見えてしまうこともあるかもしれません。それでも、子どもたちが自ら決めた進路であれば、多少の反対をしたい気持ちはあれど、彼らの本気の決断を見ることができたなら、彼らを信じて、送り出すのが親の役目ではないでしょうか。子どもが失敗しないために、彼らの進路先を決めてあげることではなく、一度は彼らの壁となり、彼らの本気の決断を引き出し、サポーターとなること。そして、彼らを信じてあげることが、子どもたちが力を発揮できる土台となるのです。


志望校選び

御殿谷光一さん
取材協力:
御殿谷光一さん
巣鴨アドバンススクール アメリカ事業部責任者
www.sugamoadvance.com
 
好きなこと、得意なことに加え、将来したい仕事を決めた方が大学は決めやすいです。そこに骨を埋める覚悟までなくとも、「自動車が好き」とかがあれば「この大学はどう?」と取っ掛かりができます。仮でも決めた上で進んだ方が、軌道修正しやすいんですよね。例えると、どの山に登るか考えるだけでは時間が過ぎていく。それならとりあえず目の前の山と決めて登った方が、筋力、体力、精神力が付きます。途中でこの山は違うと気付いたら、それまで得た力で他の山に登ればいいだけです。将来の道も仮で決めた方が力を付けやすく、そういう生徒の方が目標が変わっても次の目標に向かって頑張れます。
 
でも、そうはいかない生徒もいっぱいいるわけです。そんな子にまず勧めるのが、スーパーグローバル37校を調べること。日本の大学全779校を調べるのは大変なので、まずは37校からです。次に立地。北海道か九州か、どこに住んでみたいか考えます。
 
大学選びで親ができることは決めることではなく、環境を整えることです。最終的に本人が決めないと、子どもは親の責任にします。親が口を出し、子どもが折れて、親の勧める大学に行き、それが合わないと「うちは親が悪かった」となるんです。逆もあり、親のおかげで良い大学に入れたら、就職も親に頼ってしまいます。
 
親の価値観は子どもの一世代前の価値観だと自覚すべきです。例えば私の親世代は「銀行=安定」でしたが、今やどうなるか分かりません。もちろん、子どもが自ら志を持って銀行に入るのはとても良いのですが、親の価値観に沿って生き続けるのは苦しいですよね。決めるのは子どもだと、親は意識しておいた方がいいです。たとえ子どもがユーチューバーになりたいと言っても否定しないでほしいですね。自分でユーチューバーになると決め、行動する中で学びがあるんですよ。まずは子どもが決めたことを応援してあげましょう。
 
最終的には進学する本人の納得感。どこを出たかより、そこで何を得たかが大事です。有名大学に行けば将来安泰なわけでもないし、無名の大学に行っても人生が終わるわけではないですから。それより子ども自身がいいと思える大学を見つけてほしいですね。選んだ子どもが責任をとり、親はそれを信じて送り出すことが大事です。

学外の活動

尾崎さん
取材協力:塾講師 尾崎さん
 
アメリカから日本の大学を目指す場合、日頃の学校の勉強以外で心掛けておきたいことが3点あります。
 
1つ目は日本語と日本の社会常識です。入試で英語しか使わない大学でも、入学後は日本語の授業がある場合が多いです。ですから、ある程度の日本語の勉強はしておいた方がいいでしょう。
 
また、海外に住みながら社会、つまり日本の地理や歴史を学習している子は少ないようです。去年、日本語は非常に上手なのに、日本に関する基本的なことを知らない帰国生入試をする子がいて、びっくりしました。例えば日本を囲む海の名前を知らないとか、いわゆる日本人にとっての一般常識です。日本に留学生として来る外国人の中には、日本語が上手いだけではなく、歴史や社会をかなり知っている人もいます。帰国生であっても新二世であっても、日本の一般常識は勉強しておいた方がいいでしょう。それは日本の生活でも必要な知識だったりしますから。中学生の社会の教科書をおさらいしたり、親と日頃から日本について話したりしておけば身に付くと思います。
 
2つ目は英語の資格を取ること。特に帰国生や日本国籍の方に意識してほしいです。日本の大学は、受験者がどの程度英語ができるか分からないので、英語力を証明する必要があります。アメリカにいる間に英検、TOEFL、IELTSなどの英語の資格試験を受けておくといいでしょう。英検準1級、IELTSは5・5以上だと入試で有利になったり、あるいはそれを入試の必要資格としたりしている大学が多いです。特に英検準1級があれば、帰国枠ではなく、多くの大学の一般の推薦枠を受けられますし、英検準1級以上保持者に限り英語1教科で一般受験ができる大学も無数にあります。
 
英検は日本の英語力の試験では最も力があり、日本の企業の就職活動でもに非常に強い武器になるものです。
 
3つ目は学業以外の実績を持つこと。スポーツのクラブチームや芸術に打ち込む機会など、勉強以外の活動で力を入れた経験を持っておくといいです。運動が苦手な子や、芸術的センスに自信のない子でも、ボランティア活動ならできると思います。それらの活動を学校や所属した団体に証明してもらえるとなお良いです。過去の難関校の合格者を見ると、本人の学業や人柄もさることながら、趣味の空手で国際大会に出たとか、海岸掃除のボランティアをしていたとか、ホームレスの炊き出しを続けたとか、勉強以外の活動で実績を持っていた子が多いのです。それにこうしたことは、若い頃ならではの貴重な体験になりますし、将来の人間の幅みたいなものにもつながっていくことですから。
 
日本の大学を目指すなら、この3つを意識してみてください。

現地校の学習

熊野 弘さん
取材協力:
熊野 弘さん
GATE現地校学習塾 塾長
www.gate4math.com
 
アメリカの大学の出願は12年生の秋~12月で、3月頃に結果が発表されます。一方、日本の大学の出願は、秋入学(9月)では1~5月、翌年の春入学では高校卒業後から始まります。アメリカの大学は、GPA(成績の平均値)とSATなどの結果を重視しています。最近、日本の大学も帰国生や外国人留学生に対して、アメリカの大学の選考基準を採用する傾向が強まってきました。日米併願の場合、まずはアメリカの準備から始めていきましょう。
 
よく、「日本の大学は、現地校の成績を重視しない」と、学校の勉強を疎かにしている帰国生受験生がいます。日本の大学は、従来の筆記試験から、現地校での成績や活動などを評価する傾向に向かっていますので、毎日の勉強は手を抜かないようにしましょう。GPAのスコアを上げるためにも、多くのAPやHonorsクラスを受けることをお勧めします。
 
受験生が気になるのは成績の学校間格差です。帰国生・留学生の受け入れ実績がある大学は、しっかりと各高校のレベルを把握しているようです。今後も多くの受け入れ大学が評価基準を作ってくると思いますので、今の高校でベストを尽くしましょう。
 
受験生を持つ親にとって、子どもにどう対応すべきかは、悩むところです。成績ばかりに気を取られるのではなく、大学の学びが社会でどう生かされるのか、グローバル社会におけるバイリンガルの役割など、大人の視点のアドバイスが大切です。きっと、新たな親子の会話が生まれると思います。

スケジューリング

下田佳子さん
取材協力:
下田佳子さん
優塾 塾頭
www.youjuku.com
 
帰国生受験の提出書類はだいたい、アメリカの受験と同じものに加え、TOEFLのスコアなどです。
 
SATの開催は10月、11月、12月の次が3月と間が空くので、11年生のうちに納得するスコアを取りたいですね。カレッジボードから日本の大学にスコアを送る際は、3、4週間の余裕をみておきましょう。
 
エッセーの準備は11年生から。自分の強みや大学でしたいことを明確にしておく必要があります。余談ですが、私はやりたいことが分からない子には、どの大学のどの学部で、どんな授業が取れ、卒業生がどこに就職するのか調べさせます。この教授のこんな授業に興味があるから、大学でその方面の知識を伸ばしたいとエッセーで書くので、大学の下調べも夢を探す意味で重要なのです。これは日米どちらにも通用する話です。
 
日本で英語受験する場合、レコメンデーションレターは英文のまま日米同じフォーマットでほぼ大丈夫です。自分をよく知る、お世話になった先生に書いてもらうのがいいと思います。10年生、11年生で依頼しても早過ぎることはありません。実際に書いてもらうのは志望校を確定させた後です。
 
受験校を決めたら、次は何の書類がいつまでに必要かのリストアップです。1次試験、その結果が出る前に別の大学の試験、1次の結果が出たら、2次はどこを受けるか、学費の準備、受験料支払い、入学金の納入、学費の納入期限と併せて考えます。
 
大学の提示する日程はこまめにチェックしましょう。去年、ある有名大学で受付期間が突然2週間も短く変更されたことがありました。早めに行動できるといいですね。

※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版2020年4月1日号」「ライトハウス・ロサンゼルス版2018年4月1日号」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。