日本の大学の魅力

2017年ライトハウスでは日本の大学について特集を組み、セミナーを各地で開催しました。少子化やグローバル化を受け、日本の大学は海外の学生に注目しています。多様な入試方法や英語カリキュラムを用意したり、秋入学ができるようにしたりするなど、学生獲得へ向け、大きな変化を遂げている真っ最中です。

一方、関係者への取材を通じ、これまで、永住家庭の子ども(新二世)はアメリカの大学進学、駐在員家庭の子ども(帰国生)は日本の大学進学と、分かれる傾向にあったものの、最近は家庭環境に関係なく、日米両方の大学を視野に入れる学生が増える傾向にあり、日本の大学への注目度が上がってきていることが分かってきました。背景には先に述べた日本の大学の変化、駐在期間の長期化、アメリカの大学の学費や卒業率への不満などが考えられます。

では、そもそも日本の大学に進学するメリットとは何なのでしょう?

日本の大学に進学するメリット

1. アイデンティティーの確立

新二世や帰国生は、日米の文化のはざまで生きています。20歳前後の多感な時に、育ったアメリカを離れて日本で暮らすことは、「自分は何者なのか?」「将来はどこでどのように暮らすのか?」など、自分を見つめ直す良い機会になります。すぐに日本の大学に溶け込める子もいれば、なかなか溶け込めず苦労する子もいます。しかし、そのカルチャーギャップ体験こそが、将来を考える好機となるでしょう。

2. 日本の生活を経験

今までと違う文化、社会で暮らすのは良い経験です。学生時代は「分からない」「知らない」が許される時期。マナー、日本の一般常識、人間関係の距離感など、日本社会を体験できます。特に将来、日本で働くことを考えている場合は日本を知る良い練習期間になるでしょう。

3. 専門科目が1年から学べる

アメリカの多くの大学と異なり、入学時に専攻する学科を決めることが多い日本の大学。1年生から専門科目を学べる大学が多くあります。

4. 卒業しやすさ

アメリカの4年制大学を6年以内に卒業する率は54.8%。「学生は厳しい環境で勉学に励むべき」という意見もありますが、そうした環境で続かない子もいるのが事実です。一方、日本の大学の卒業率は81.2%。一般的に言われる「日本の大学生は勉強しない」とは、学習以外の時間も大いにあるという意味でもあります。少ない負担で卒業できることは、大いに活用すべきと強調するのは、本誌で「アメリカ大学進学ガイダンス」を連載する原田誠さんです。「人によって成長時期は違います。高校卒業時に成熟している子は厳しい大学でも大丈夫かもしれません。しかし、少ない負担で大卒の学位を手に入れた後、社会人や大学院生になってから伸びる子もいるんです。アルバイトなど学外の活動で成長する子もいますし、そういう子に日本の大学は価値があるでしょう」と言います。

それでは、特にどのような子が日本の大学に向いているのでしょうか。

どのような子が日本の大学進学に向いている?

1. 日本が好き

日本のことや文化を深く学びたい、日本語を学びたい、そのような意欲のある学生は日本への進学が近道です。

2. アメリカの大学を中退、アメリカの大学に不合格

アメリカの大学を中退してから、キャリアを積むのは大変です。中退後、日本でキャリアを再構築するのも一案です。

また、日米の入試日程の差を利用し、日米の大学を併願して受けては?と提案するのは、GATE現地校学習塾の熊野塾長。「日本の秋入学試験は12年生の12月~5月。つまり2、3月にアメリカの大学の結果が出た後にもチャンスがあります。春入学だと高校卒業後~翌春が入試です。アメリカの大学の結果に応じて、コミュニティーカレッジはもちろん、日本の春入学、秋入学と選択肢があるのが、新二世と帰国生の強みです」と話します。

3. 性格

アメリカの大学は学生の自主性や積極性が重んじられ、授業でも常に発言が求められます。こういった風土が合わない子は、講義型の授業が中心の日本の大学の方が向いているかもしれません。

4. 教育に興味がある

日本では、英語4技能を重視するなど、英語教育が転換期を迎えていますが、高いレベルの英語教師は不足しています。英語や教育に興味があれば、日本で英語教員を目指すのも1つの手です。

大学進学、在米日本人はこう考える

Q1. 将来、大学進学は日米どちらを希望しますか?

将来、大学進学は日米どちらを希望しますか?

Q2. 日本の大学が選択肢にある場合、その理由は何ですか?(複数回答可)

日本の大学が選択肢にある場合、その理由は何ですか?

その他の意見には以下のようなものがありました。

・日本で留学体験をしたいから
・将来の可能性を広げたいから
・親の実家があるから
・日本で視野を広げたい
・日本の文化を学びたい
・家族が日本の大学を希望している など

実施期間:2017/10/31-2017/11/3
回答者:カリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州の「アメリカ生まれの日本人と子ども(新二世)と帰国生のための日本の大学説明会」(ライトハウス主催)に参加した保護者と学生有効回答総数:155件

新二世への期待・外国人留学生への取り組みについて

文部科学省の担当者からライトハウスにコメントをいただきました!

●新二世や帰国生に期待することは何ですか?
新二世や帰国生はグローバルな考え方や経験を積んだ方も多いと思います。他方、既に日本や日本文化に高い関心を持ち、日本の環境への適応に優れている人も多いでしょう。そのような人が日本の大学や企業を目指すことは、日本にさまざまな考え方や多様な価値観をもたらすと期待できます。

●昨今、日本で留学生を増やす取り組みが行われている背景を教えてください。
日本を世界により開かれた国とし、ヒト、モノ、カネ、情報の流れを拡大する「グローバル戦略」の一環として、2020年をめどに留学生受け入れ30万人を目指しています。近年、世界は激しい人材獲得競争にあり、どれだけ人を集め、人とのつながりをつくるかに国の将来がかかっているので、我が国としても世界中から優れた人材を求めています。

●留学生を増やす取り組みにはどのようなものがありますか?
2018年度予算案の一部を紹介すると「国費外国人留学生制度」(11,276人)、「留学生受入れ促進プログラム(学習奨励費)」(7,870人)などの外国人留学生奨学金制度に約231億円の予算を組んでいます。また、外国人材の日本での就職の拡大や留学生の増加と定着を図る「留学生就職促進プログラム」や、(独)日本学生支援機構による留学生向けの宿舎運営・就職支援などを通じ、今後も優秀な留学生が日本で学ぶことができるよう支援します。

●「スーパーグローバル大学創成支援事業」とはどのようなものでしょう?
本事業は、日本の大学の国際通用性および国際競争力向上のため、海外の卓越した大学との連携や、大学改革により徹底した国際化を進める37大学を選定し、重点的に支援を行うものです。これまで、外国人教員等の増加や外国語のみで卒業できるコースの開設、入学時期の弾力化などが進み、外国人留学生の受け入れも増加傾向にあります。
取材協力: 文部科学省高等教育局 高等教育企画課国際企画室/学生・留学生課留学生交流室

日本の大学の魅力

日本の大学には、具体的にどのような魅力、長所や特徴があるのでしょうか? 実例も交えながらご紹介します。

入試

帰国生入試だけじゃないさまざまな入り方

従来からある帰国生入試は、原則日本人が対象で、日本以外の国で2年以上継続して暮らし、現地の学校に通っていたことがあるなど、いくつか条件がありました。また、帰国生の試験では日本語力を問われることも多く、長く海外にいる子どもにとっては負担になっていたのも事実です。しかし、日本の大学のグローバル化や入試改革が進む中で、全体的に外国籍や母語が日本語でない学生へ向けて新しい入試制度を設ける大学が増えています。

実際に、そうした制度を利用して海外から受ける学生は増加にあるようで、上智大学入学センターでは、「英語のみで学位が取れる学部やコースは、毎期志願者が増加傾向にあり、特に秋入学は、外国の学校出身の日本人や、世界各国からの留学生が大半を占めています。本学はアメリカからの出願も多いです。また、外国人入試は日本語で学位を取る学部で募集していますが、こちらの入試も年々志願者が増加しています」と話します。

気になる選考方法ですが、国際基督教大学(ICU)アドミッションズ・センターが、「英語による書類選考での出願者は、アメリカの大学などと同様の選考方法で入学者選抜を実施しているので、アメリカの大学進学に向けた準備がICUの出願の準備にもつながります」と話すようにSATやACTのスコアの提出や英文のエッセーなど、アメリカの大学入試と同じ準備で受けられる大学も増えてきています。

他に、アメリカにいたまま必要書類をオンラインや郵送で送るだけで合否が決まる入試、国際バカロレア入試、海外在住学生に向けて応募締切を何度も設ける制度などもあります。

留学生の枠を新二世はもっと活用を

大学によって多少の差はありますが、帰国生枠よりも留学生枠入試の方が入りやすく、返済不要の奨学金も取りやすいという見解を持つのは、日本の塾講師、尾崎さんです。「学校の勉強がある程度できる新二世なら、留学生枠が使えることを念頭に置いて学校を探すと進路の幅が広がります」と話します。

「日本語能力試験や日本留学試験がパスできれば、留学生として、難関の国公立なども狙いやすくなります。日本留学試験の過去問に目を通すと、いわゆる帰国生向けの試験に比べてハードルは低い印象を受けます。ただ、大学によってはそれとは別の専門学科の試験、例えば理系の学部なら数学や物理といった基礎教科を課す場合もあるようです。しかし、アメリカでAPやHonorsのような上のクラスを取っていれば十分カバーできるでしょう」(尾崎さん)。

いずれにしても、各大学ごとに名称や国籍を含めた受験要件、募集期間が異なったり、試験によっては春入学または秋入学だけが対象のこともあったりするので、気になる大学は、入試方法や制度を地道に1つ1つチェックしていく必要があります。

学費

大学生の学費と生活費の実態

アメリカに比べ、学費が安いと言われる日本。「私立大学等の平成28年度入学者に係る学生納付金等調査結果について」(文部科学省)によると、初年度の私立大学の平均授業料は87万7735円、入学金は25万3461円、施設設備費が18万5620円、合計131万6816円となっています。

一方、国公立では、「平成29年度学生納付金調査結果」(文部科学省)によると、入学金(地元以外の者が進学)の平均は39万4225円、授業料の平均が53万8294円でした。全体的に私立より国公立、学部では理系より文系の方が学費は安く押さえられます。

また、全国大学生活協同組合連合会が全国の国公立、私立大学の学生約1万9000人に行った「第53回学生生活実態調査」(17年10月~11月)によれば下宿生(自宅、寮以外に住む学生)の生活費の支出は月額約12万円となっています。この調査では平均家賃が約5万2000円となっていますが、全国平均なので、実際には地域格差があるでしょう。住まいが寮か賃貸か、また立地が市街地か郊外かで、生活費は変わってきそうです。

ちなみに寮の一例を示すと、東京都内にある津田塾大学の寮では、年間26万8000円(18年、東西寮2人部屋、光熱水雑費含む)または33万8000円(18年、白梅寮2人部屋もしくは東西寮1人部屋、光熱水雑費含む)となっています。大学によっては、直接問い合わせれば、在籍する学生の生活費の平均値を教えてくれるところもあります。

学費の考え方・奨学金日米の違い

「親子でお金のことを話した方が良いですよ」と勧めるのは、GATE現地校学習塾の熊野塾長です。「アメリカの親は大学選びに積極的に参加し、費用の話をします。なぜなら、大学は子どもへの投資と考えているからです。大学説明会にも一緒に参加し、大学の教育方針、設備、環境などをしっかりと調べ、子どもと話をします。日本人の親はなかなかお金の話を子どもとしませんね。アメリカの大学と比べると日本はいくらでこれだけのことができると、子どもの将来の選択肢をお金の面からも話し合うと良いと思います」(熊野塾長)。

気になる奨学金ですが、日本にも奨学金の制度があり、うまく活用できれば学費はさらに下げられます。各大学が用意している奨学金の他に、大学の枠にとらわれない奨学金もあります。まずは希望する大学のウェブサイトへ行き、どのような奨学金があるのが探すのが近道です。ただ、日本の奨学金は、アメリカのような返す必要のない給付型よりも、返す必要のある貸与型の方が多いので注意しましょう。

アメリカの学費は奨学金が取れればかなり安く押さえられることがあります。また、アメリカより学費が安い英語圏の大学もたくさんあることを考えれば、「学費が安い」だけが日本の大学のメリットとは考えにくく、あくまでも学費の安さはメリットの1つ、くらいに捉えておくのがよさそうです。

カリキュラム

英語の授業は増加 それでも日本語は必須

日本の大学全体では、英語で受けられる大学の授業が増加中です。英語の授業だけで卒業できる学部、学科、コースのある大学や、大半の授業を英語で受けられる大学もあります。

例えば、開学以来日英バイリンガル教育を行っているICUでは、英語の講義は全講義の30%(分野によっては60%)で開講しています。そのため、同校では、主に日本語が母語の学生は英語、主に英語が母語の学生には日本語の語学プログラムを実施し、全ての学生が2言語で学び合う環境を提供しています。

また、日本人と外国人の生徒の割合がほぼ半分の立命館アジア太平洋大学(APU)のように、約9割の科目を日英両言語で開講している大学もあります。同校でも日本語が母語でない学生は日本語、英語が母語でない学生は英語の授業が必須で、卒業までにビジネスに支障ないレベルまで高める学生もいるそうです。

前述の大学に限らず、たとえ英語だけで入試ができても、在学中の日本語力を問わない、というわけではなく、ある程度は日本語の学習が必要だと覚悟しておいた方がいいでしょう。

英語授業はこれからどうなる?

塾講師の尾崎さんは、英語カリキュラム増加の流れが大きく広がっていくかはまだまだ様子見だとしています。「まず、英語だけで授業を完結できる教員をそろえられる大学は少ないのが大きな理由の1つ。もう1つは、英語だけで勉強して卒業するのでは、わざわざ日本の大学に来る必要はなく、海外から日本に来るということは、日本語学習を含めて学問を修めることであると多くの日本の大学が考えているということです。ただ、英語で論文を読んで、英語で論文を書く入試をする大学では、日本語を重視したいという士気は低いかもしれません」。

実際、「英語で学べるプログラムのクオリティーは大学によって大きな差がある」、「開講されている英語の授業が少ない」、「授業の選択肢が少ない」といった声も聞かれます。

卒業後の進路

活況な日本の新卒市場 留学生就職率も上昇中

売り手市場が続く日本の大学生の就職状況。2017年4月の大卒者の就職率は97.6%(文部科学省「平成28年度大学等卒業者の就職状況調査」)でした。2018年春の卒業予定者の内定率は昨年12月の時点で86%(文部科学省「平成29年度大学卒業予定者の就職内定状況調査」)で、今春にはさらに高い数字が期待されています。また、日本学生支援機構の調査によると、外国人留学生(学部生)の日本での就職率も、34.5%(2014年)、39.7%(2015年)、41.8%(2016年)と急速に伸びてきています。

とはいえ、長く外国で暮らしてきた学生にとっては、日本独自の新卒一括採用システムにはなじみがありません。上智大学やAPUのように、日本式の就活やインターンのやり方について留学生向けにプログラムを組んでフォローしている大学も多くあります。実際、上智大学では、英語による就活セミナーや企業説明会などが功を奏し、2016年の学部卒の留学生の就職率は日本学生支援機構の調査を上回る59.2%だったそうです。

卒業後、日本国外で就職したい場合はどうでしょうか? APUでは「当校では海外に就職する場合、学生自身が求人を探したり、エージェントに登録したりしているのが現状です。昨今、外国人に対するビザの申請が厳しく、海外では新卒の採用をしないところが多くなってきたようです。ただ、日系企業の現地法人が当校のキャンパス・リクルーティングに来ることもあります」と話します。日本国内企業の留学生人気の高まりは、同校でも感じているようで、「日本企業からの留学生のニーズは感じており、留学生の就職率も実際に年々良くなる傾向にあります」ということでした。

英語力を生かした日本での就職

「日本の大学が向いている学生とは?」ページでも紹介しているとおり、教育に興味がある学生であれば、日本で英語教師を目指すのも一案です。この案を勧めるのは原田誠さん。「新二世や帰国生は読む、書く、聞く、話すを指導できるだけの英語力を持っています。そういう人が日本で教職免許を取り、日本の学校で先生になるのは良いキャリアの積み方の一つです。しかも日本の学校の先生は待遇に恵まれていて、場合によってはアメリカの学校の先生の倍ぐらい給与が貰えることもあります。学校の先生や英語を教えることに興味があるなら、ぜひ検討してほしいです」。

英語教育や英語教師の輩出に実績のある津田塾大学では英語に関する求人について「最近は政府が観光立国を目指しているためか、自治体からの通訳や翻訳の募集がありました。東京都庁や警察でも英語力がある人材をほしがっています。微増ではありますが、社内に翻訳専門の部署を置く企業は増えています。小学校から英語教育が導入されるので、今後は教職の求人も増えると考えられます」と話します。日本の英語教育が過渡期なことに合わせ、同校でも英語4技能の実践的指導をカリキュラムに組み入れるなど、教員養成の現場でも、より高いレベルの英語教員を送り出すための改革が進んでいるそうです。

大学情報参考サイト
スーパーグローバル大学創成支援 スーパーグローバル大学37校を紹介するサイト
海外子女教育振興財団 帰国生に関する情報のポータルサイト
Study in Japan
 外務省の留学情報総合サイト
Gateway to Study in Japan
 日本学生支援機構の留学情報総合サイト
Japan Study Support
 アジア学生文化協会による留学情報総合サイト
日本学生支援機構
 [奨学金] 留学生支援、学生生活全般を支援するサイト

※このページは「ライトハウス・ロサンゼルス版2018年4月1日号」掲載の情報を基に作成しています。最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。